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プロローグ
そこは壁も天井も床も灰色一色の部屋。白と黒と灰色しか認識できない最低限の家具だけが並べられていた。
胸元辺りの高さ程のローチェストには黒の花瓶が置かれ、灰色の椿が挿さっている。
(これ程まで自身の彩感(シェライズ)は鈍っているのか)
人の気配を感じ振り返る。窓側には長い髪で黒のドレスを着た女性が外を見つめている。
女性はゆったりとした動きでこちらに体を向けた。窓から差し込む日没の光を背に浴びるためか、逆光で誰であるか特定出来ない。
「ねぇ……知ってる? この紙にね、お願い事を書くとお星様が叶えてくれるだって」
確証のあるかのように生き生きとしたソプラノの声調。
彼女は小さなダイニングテーブルに近づき、卓上にあった羽ペンを手にする。短冊状の紙にペンの先を当てた。
「願いは……絶対叶うから!」
彼女は柔らかな笑みを浮かべ何かを書き始めた。
――そこから俺の視界にモヤがかかっていった。
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