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トラウマ
仕事終わりにいつもの商店街を歩いていると、類が目の前で急に道に座り込んだ。
店のシャッターに寄りかかり、下を向いてぐったりとしている。
沙和子は慌てて類に駆け寄った。肩を支え類の首筋に手をあてると、熱い。類は肩で息をして、辛そうに下を向いたままだ。
「大丈夫ですか!?」
沙和子が声をかけると、類は虚ろに視線をさ迷わせた。声が届いているのかも定かではない。
「…」
沙和子の肩に身体を預けて、目を閉じている。
近くを通りかかった、二人組の若者が二人に気づいて声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
沙和子が「急に…倒れて…熱が…」と呟くと、おろおろする沙和子の様子に同情したのか、若者たちは類の両脇を支え、肩を貸してくれた。
とりあえず、昨夜翔琉を運んだ救急病院へ連れて行こうと、タクシー乗り場まで運んでもらう。
幸い、ロータリーにはタクシーが数台客待ちをしていたのですぐに乗り込むことが出来た。
心配そうにこちらを見ている二人組に礼を言うと、沙和子は運転手に、一番近くにある救急病院へ向かってくれるよう頼む。
類はタクシーに乗った後も、意識があるのかないのか、一言も喋らない。
苦しそうに、肩で息をしている。
翔琉とカヨの家から帰った日、目が覚めると類と沙和子はひとつの毛布にくるまって床に転がっていた。
沙和子は軽いパニックに陥ったが、記憶を辿った結果完全に自業自得だったため、類の前では頑張って平静を装った。
盛大にからかわれるのを覚悟していたのだが、類は珍しく何も言わなかった。
カヨは翔琉の看病があるし、沙和子も今日は店に出なければと出かける前の支度を始める。
仕事の前に夕飯を食べるようにすすめたが、類は「いい」と断った。
類が沙和子の作った食事を断るのは初めてのことだったので少し不思議に思ったが、無理にすすめるのも可笑しな話だと、特に気にせず出勤した。
きっとあの時すでに体調が悪かったのだろう。
店ではいつも通り仕事をこなしていたが、思い返せば少しぼーっとしていたようにも思えるし、カウンターに寄りかかるようにして立っていたような気もする。
「…具合、悪かったんですね」
後部座席で類の頭を膝に乗せながら、沙和子はぽつりと呟いた。
膝が熱い。
またさらに熱が上がっているような気がする。
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