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とりあえず、哲司が到着するまで類をこの場に留めておかなければと思った矢先、類がまたふらふらと立ち上がった。
一瞬落ち着いてきたのかと思ったが、類は沙和子から逃げるようにその場を離れようとする。
「類さん!今、哲司さん来ますから。ちょっとだけ待ちましょう?」
沙和子がそう言って止めても類は歩くのを止めない。
また倒れてはいけないと、沙和子は必死に類の腕にしがみついた。
「お願いだから止まって!」
「…触んな!」
腕を払おうとした瞬間、バランスを崩した類と一緒に沙和子も倒れこむ。類を下敷きにする形になってしまったため、沙和子は慌てて身体を起こしたが、下にいる類を見て驚いたように動きを止めた。
「…気持ち悪い、やめて、触んないで」
何度もそう呟きながら両手で顔を覆っている。
類の身体は小刻みに震えていた。
沙和子は慌てて類から離れたが、類はうずくまったまま動かない。
今、類を苦しめている元凶が自分なのだと理解した沙和子は、黙って類を見つめることしかできなかった。
哲司の車が到着しても、沙和子はぼんやりと道の端に座ったままだった。
類はもう立ち上がる元気もないのか、塀に寄りかかり腕の中に顔を埋めて動かない。
車から降りた哲司が類に駆け寄った。
「類、大丈夫か」
哲司はぐったりとしている類の腕を迷わず掴むと、引き寄せてぽんぽんと背中を叩いた。
「…てっちゃん」
類は哲司を見上げると、安心したのか少しだけ表情を和らげた。さっきまでの混乱状態ではなさそうだ。
「おう、迎え来たぞ」
そう言うと類の腕を肩に回して立ち上がった。
隣で座り込んだままの沙和子の頭にそっと手を乗せる。大きくて優しい手だった。
哲司は沙和子を労るように声をかけた。
「びっくりしただろ。遅くなってごめんな」
沙和子は黙って首を左右に振った。
「立てる?」
「…はい」
帰り道、類は助手席の窓に寄りかかり目を閉じていた。哲司は何も言わず、黙って運転している。
沙和子も何も聞かずに大人しく座っていたが、胸の鼓動はなかなかもとには戻らなかった。
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