第1話

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お昼前、営業員さん達はそれぞれ担当の会社へと散っていく。 賑やかだった営業所が静かになる、ほんの一時。 私は一人お昼休みをとる。 喫煙所から続く非常階段に出て、外の空気を吸うと夏の匂いがした。 梅雨の合間の太陽は眩しく、緑が萌えて目が痛い程だ。 「何かいいことないかな」 口癖になってしまったこの言葉。何かを待ち望んでいるわけではない。 期待もしていない。 それでも口をついて 出てくるのは、無意識に「何か」を 待っていると? 自分に問い掛けてみた。 答えは、 「イエス…かな」 「何が?」 何がって… え? 振り向くと、 河合 りくが立っていた。 煙草を取り出しながら、 くっと笑う。 (確かにこの笑顔は反則だわ) 太田さんの言葉がよみがえる。 東の空遠く、雷が鳴っていた。一雨来そうな気配。 待っていた「何か」も来そうな気配。 久しぶりに仕掛けてみようか。
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