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この日は真夏。炎天下の中、トラックを走らせる。荷台には固定された、大型洗濯機と水洗式トイレ。
トラックを走らせているのはまだ若い男。助手席には年配の男。
「ねえ、鶴見さん」
ハンドルを握りつつ、若い男は口を開いた小一時間口を閉ざしていたので、口の中が乾いていてうまく言葉が出ない。冷房を入れても、冷房のまったく効かないトラックの室内。外ではあぶらセミがやかましく騒いでいる。
「なんだ?」
「暑いっす」
「うるせえ、何度目だ。わかりきったことを言うな。俺だって暑い」
そして若い男のため息を最後に、また二人の会話は止まる。若い男は額に浮かぶ汗など気にもせず淡々と目の前の道に集中していた。助手席の鶴見は、席を倒し、頭に地図を乗せている。
「まだつかないんすかね。お客さんの家」
赤信号で、トラックが止まると同時に若い男は額に浮かぶ汗を首に巻いているタオルで拭う
「もう少しだ、この道をたぶん、右…」
頭の上に乗っていた地図を両手で持ち上げ、上下に動かし、現在地を確かめている鶴見。真面目に仕事する気があるのかと、横目で睨みつける。
右に曲がって数分して、すぐに目的の家にたどり着いた。
「ここ、ですか」
「たぶんな。山村、ちょいとインターホン押してこい」
鶴見がそう言うと、山村と呼ばれた若い男はトラックを降り、インターホンを押して二、三歩さがり、改めて家の外観を眺める。
「いやあ、待ってましたよ」
出てきたのは、頭のよさそうな男。情報によれば、妻子もおらず家政婦をたまに雇っている大学の教授らしい。
「それで・・・商品は?」
「ええ・・・ここに」
山村はそう言って持ち込んだ洗濯機を叩く
「は、はやく、見せてくれ」
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