第二話

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「ベストトリップ賞ねえ」虎が満足げにニタリと笑った。「わっかんないなあ。それとこれ、なんの関係があるわけ」  わかってるくせに。 「あいつらの身なり見てみろ。ドレッド倉敷くんの時計……あれ?」 「オメガな」と、倉敷くんの腕にはまっていたはずのそれを、虎がスラックスのポケットから取りだした。 「お前はガキからくすねてどうすんだよ」 「ブルガリと」と右からまた時計、「ケイスミス」と左からバングルを出し、「むかつくよなあ。汗みずたらして働いて買ったおれのバングルと、ご褒美のシャブを売りさばいたっぽい金でホイホイ買ったバングルがお揃いとか萎えるわあ」 「俺も萎えるわ!」やっぱり最初っからわかってやがったなとか、なんでもかんでも出しやがってお前のポケットは四次元に通じてんのかとか、そのにやけ面やめろとか、もろもろかっさばいて、「お前の手首、メンズものぶかぶかじゃないの」 「うるさいよ!」 「落っこちちゃうんじゃないの」 「ほっとけ!」  虎がわめくそばから、楓が「どれどれ」と虎の手首を掴んで計測しはじめる。「班長! あたしめより細い可能性があります!」 「お前と比べんな! メスブタゴリラ!」虎は、ぶん、と腕を振って楓の手をはがし、 「ブタゴリ……あたしのこの完全無欠ナイスバディが見えないの!?」楓は、むん、と胸を張れば、虎が、ふん、と鼻を鳴らす。 「牛」 「ひどい!」 「さっさと牧場に帰って搾乳機つけてもらえよ」 「もうやだ! 雪ちゃん、こいつもうやだ!」  こいつらもうやだ……。
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