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「ご褒美な、ご褒美」頭痛え。「虎の言うように、ご褒美だろう。てことはだな」
こめかみを押さえつつ、なんとか仕切り直しているそばから、
「やーい乳牛やーい」
「もうやめてって言ってんじゃん!」
と楓が虎の胸ぐらを掴み、
「触るな、ホルスタインがうつる」
と虎が楓の手をはたき落とせば、楓が虎の腹に膝蹴り、虎がその脚を片手で抱えて――
「ご褒美な! ご褒美ってことは」握り拳をつくった虎の腕と話を引き戻す。「ご褒美をあいつらにくれた人間がいる」
虎は、無言で楓の脚を手放した。虎の拳がほどけたことを確認して手を離す。
「その人間を叩かなきゃ、また同じことが起きる。あいつらをシメても、べつのやつらが」楓の手前、この言い方はどうだろうと思うも、シスターマートのばあさんが頭を過れる。やっぱりこの言い方しか思いつかない。息を吸う。「犠牲になる」
両手を仲間に繋がれて、不安げにこちらの様子をうかがっている連中に足をむけた。ひときわ目立つ彼の前に立った。ドレッドヘアが揺れる。チンパンジーみたいな丸い目が俺を見上げた。死神にでもなった気分だ。
「倉敷君」
なんで名前を知っているんだというふうに見開いた瞳が恐怖の色に染まった。腹の底が嫌な感覚で冷えこんでいく。
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