第二話

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 誰かをまとめて消そうとするときに最も手っ取り早いのが放火なら、誰かを支配しようとするとき最も手っ取り早いのは恐怖を与えることだろう。  しゃがみこんで、視線の高さを合わせる。たたみかける。 「俺は言葉で訊ねるだけ優しいが、あいつらは」と、背後を親指でさす。「むちゃくちゃだからな。わかるだろ? お前らをこんなふうに繋いで輪にするやつが正気のはずがない。イカれてるよ。ほら見てみろ、あいつらのあの目、お前らをいたぶりたくてうずうずしてる」 「違うんだよ!」倉敷がドレッドを揺さぶって顔を上げた。「最初から一キロ少なかったんだよ!」  ――きた。 「最初から、ねえ」信じられない、という表情をつくって反芻する。 「俺たちが受けとったときから、いつもより一キロ少なかった! 俺たちは手をつけてねえ! 受けとったそのままま設楽さんに渡した!」  勢い余って『ま』がひとつばかりよけいだ。 「証拠は」 「証拠なんかあるわけないだろ……コカはとくに証拠を残さないようにしろって設楽さんに言われてんだから……」  なるほど、アタマの名前は設楽、こいつらは麻薬の運び屋か。  俺の無言が怖いのか、倉敷は「頼むよ……信じてくれよ……」と目に涙さえ浮かべて懇願する。  いってもまだ子どもだ。利用されているだけ、使えなくなったら切って捨てられるだけの、覚悟をきめることも居直ることも諦めることもしらない、子どもなんだ。  胃のあたりがミシミシする。 「証拠もなしに信じろつったっておまえ、コカだぜ一キロだぜ」肩をすくめてかぶりを振る。「俺らがここに来たってことでだいたいわかるだろ? な? 俺らの立場も考えてくれよ。火のないところになんとかなんだからさ、あの人が納得するネタがなきゃ、お前らをやっちゃうしかないよな?」
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