第二話

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 かしゃん、と渇いた効果音が背後からした。虎だ。四次元ポケット決定の音、ベレッタM92FSの装填する音だ。  不良の輪がひとまわり小さくなったように見えた。むっとする異臭が温い風に運ばれてきた。かわいそうに、だれかがしょんべんを漏らしたらしい。 「だいたいよお、証拠がないってギャースカわめいたところで、向こうの惨状はなんだよ」屋敷を顎で挿す。「使用済みコンドームだの、飲みかけのペットボトルだの、極めつけはスニッフィングのあとなんか残しやがって。笑わせんな」 「あ」のかたちで唇を震わせ、「あれは、ここにだれも近づけさせなければなにしてもいいって設楽さんが……!」  なるほど、この場所は麻薬密売の中継点というわけか。見上げれば、この場所だけ空に向かってぽっかりと穴があいている。まわりは放置に放置をかさねた野山だ。背の高い木々が山単位で生い茂っている。  こいつらの役割も手口もわかった。それらがわかれば、たとえ通り名であってもアタマの名前だけで、簡単に調べがつく。業界は狭い。日ごと名前を変えるファッションドラッグの末端ならまだしも、覚醒剤やコカインをキロ単位で扱っている大元はそう多くはない。  ここまでわかれば、もうこいつらは用無しだ。騙されていたにせよ、ここまでぺらぺらしゃべっちまったら、設楽にとっても用無しだろう。  振り返って虎を見る。右手のエムナインに加え、左手の人差し指には、俺のヘッケラー&コッホUSPが引っかかっていた。二丁の拳銃が虎のやり方なら、ここから先は、俺のオリジナルだ。
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