第二話

69/176
200人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ
「そういうことかよ」言ってため息をつき、哀れみの視線を流す。「お前らもかわいそうに。利用するだけ利用してちょっと煙がのぼったからって即ポイか。危ない橋を渡ってきたのはお前らなのにな。これが上のやることかよ」  とうとうと言葉を並べると、倉敷は目を白黒させて大きくまばたきを繰り返した。従っていた人間が急に牙をむいたと思ったら、今度は敵が自分方に寝返ってきたという急展開に、ドレッドの先まで神経を張り巡らせて状況を把握しようとしている顔だ。 「うちのやつらはブツをちょろまかしたりしねえよってあちら方にきっぱり言ってやるのが上ってもんだろうよ、なあ」  再び虎に振り返ると、楓を肘で小突いて、「聞いた? ブツだってさ。だっせーの。まじでブツって言ってんの初めて聞いたよ、おれ」とかなんとかプークスクスやってやがるから後で五、六発ぶん殴る。かたく心に誓いを立てて、倉敷に向き直る。 「だいたい、前々から思ってたんだよ。あの人のやり方って、汚えわ、こすいわ、寒いわ、えげつないわ。お前らのことにしたって、いざとなったら俺らだろ。あの人が実際に体張ってんの、お前ら見たことある?」  倉敷は身震いするようにかぶりを振った。 「だろ? もうついていけねえよ。べつに、あの人じゃなくてもやっていけるんじゃねえかって思わねえ?」  俺を見る倉敷の瞳に一筋の光が差した。恐怖によって支配されていた者をそこから解放するのはそう難しくない。恐怖をほかの感情にすり替えてやればいい。  恐怖は、強固な鎖にはなりえないのだ。本当に強い鎖は――ちらりと振り返る。恐怖以外のなにかに、その細い体をかたく繋がれている男を見やる。 「ちょっと、あいつと相談してくるわ」きっと虎は繋がれている意識すらないだろう。「お前らの処遇と俺たちの進退と」  だから、なおのことやっかいなんだ。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!