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まさか、ユッキーが俺で、まさかまさかまさか、
「ニャンちゃん?」と、笑い混じりに虎を指差すと、
「うるさい!」と怒鳴られた。
ははっ、と端末が笑う。
『よかった、打ち解けてるようで安心したよ。それで頼みってなに? 調べごと?』
底抜けに明るい声の男だ。まだ若い。声に二十代らしい瑞々しさがある。
虎は俺を肘で小突き、地面で青白く光っている端末を顎でさした。
「そうです」と俺。
『わーお、いい声してるね、ユッキー』
ユッキーなんてやつ、俺は知らないから「どうも長野です」とやんわり訂正しておく。
『ニャンちゃんより三つばかし年上かな。身長は一九○はいってないくらいだけど、体重はもうちょいあったほうが健康的じゃない? 俺も人のこと言えないけど』
え……なにこいつ。という心の底からにじみでた感情が顔に出てたらしい。虎が「声でわかるんだよ」とため息まじりに言い、楓は慌てて自分の口を手で覆った。
『まだまだわかるよー。面長で鼻高め、顎が細いけど歯並びはいい。でも歯医者の予約を勧める。その親知らずはほっといちゃダメね、の長野ユッキーはなにが知りたいの?」
反射的に舌で奥歯をさぐる。左に鈍い痛みが走った。今までなかったはずの親知らずが歯肉を押し上げ、主張しはじめている事実に背筋が凍る。生まれて初めて感じる種類の、得体の知れない恐怖がじわじわと足下から這い上がってくる。
「人を探してもらいたくて」
未知の高知能生命体にうっかり遭遇してしまった者なら俺の心境をわかってもらえるだろう、恥ずかしながら声が少し上ずった。
『ふうん』
「麻薬の密売やってるやつで」
『ネタは?』
「主にシャブとコカイン、キロ単位で扱ってる」
『コークねえ』
「名前は設楽」
『いや、遠野でしょ。設楽ってのは偽名かな。その界隈でコーク占めてんのは遠野守ひとりだけ』
「その界隈?」
『あ、ごめん。ニャンちゃんの端末から場所ひろった』
言葉もない。ただ、〈未知との遭遇はまだ始まったばかりだ〉というテロップが脳裏を悠長に過ぎっていった。
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