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「じゅうぶんだよ。ありがとう、たすく」
というひと言を発せられた虎に金メダルをくれてやりたい。とにかく、なにがあっても、このたすくとやらの気分を害したくはないし、なにをどう言ったら気分を害さずに済ませられるかすらさっぱりわからないのだ。
「それで、謝礼なんだけど」
『だからいらねえって言ってんだろ』むっとしたような声に、俺と楓は体の芯まで凍りついた。『いらないよ、そんなの。俺とニャンちゃんの仲だろ、水くさいな。そういうのやめろよ』
「いや、でも……」と虎が食い下がる。
『しつこいよ。だいたい、こんなの単なる趣味だし』
趣味、だと!?
「わかってるよ。でも、やっぱり、それなりのリスクをおかさせちゃったわけだし、おれの気持ちがおさまらないから、なんかお礼させてよ」
その、是が非でもお礼させてほしいという虎の心情は痛いほどわかった。ひとのプライバシーを丸裸にすることを趣味にしているようなやつに借りは作りたくない絶対に。絶対にだ。
『うーん。そこまで言うなら……あ、そうだ。じゃあ、端末郵送するからさ、俺だと思って肌身離さず持っててよ』
さあああああ、と全身の血の気が引く音を聞いた。
「え……、なん……」と、虎の顔が引きつる。この顔は別の場面で拝みたかった。今は笑いたくても笑えない。
『なんでって、そんなのきまってるじゃないの』端末の向こうで、やつがニヤリと笑った気配がした。『面白そうだから』
タダほど高くつくものはない。
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