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終話のあと、俺たち三人はしばらく放心状態の中にいた。それを打破したのは、虎の、
「悪いやつじゃないんだよ」という、その一言でガラリと印象をかえてしまえる魔法の言葉だった。とはいえ、やつは、その魔法の言葉をものともしない強烈な印象を俺たちに叩きつけていったわけで。
「いいやつでもないってことか」と、通話中は息さえ殺していた楓がぼんやりと呟く。
あれをいいやつ枠に収めてしまったら、いいやつの皆さんに示しがつかない。
「好奇心の化身なだけで一般人だし」
あれを一般人の枠に収めてしまったら、一般人の皆さんに以下同文。
「だから、おれスキャンみたいな端末を持たされたって無害だし」虎はもう涙目である。「そもそも友達だし」
友達なのか!
今日一番の驚きに、友達の友達はまた友達でないことを未来の俺のために祈りつつ、今の俺は、目前の問題を頭の隅から引っ張り戻す。
「まず、あいつらの処遇だな」
不良の輪は、朝日を恐れる悪魔みたいに、みな一様に体を小さく丸め、絶望の影に顔を沈めていた。
「ねえ、雪ちゃん」俺の視線の先に楓のそれが重なった気配がした。「さっき言ってたこと、ほんと?」
「さっき」目だけで楓を見ると、慌てた様子で視線を外した。
「あいつら、利用されてただけなの?」
俺を見上げる瞳は、まるで無垢だった。磨きたてのつやと輝きが、他意のないことを証明しているようだった。その証明が、都合のいい嘘をつかせてくれなかった。
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