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楓の手の中で、そろそろキキが空飛ぶ宅急便を開業したんじゃなかろうかというころ、あっという間の三十分、不良たちにとっては永遠たる地獄の三十分を、虎は、これ以上ないにやけ面で再生する。
「ネットに流す? それとも売って経費の足しにする? どうする?」
と、虎がご満悦で口にするたび、不良どもは、地面から三センチほどケツが浮く。ファスナーを上げる途中だったかわいそうな長髪は、砕かれた大事な残骸を誤って挟みこんだらしく、断末魔の叫びを上げていた。
「あ、今のも、撮っときゃよかった。よし、ロン毛くん、そのかわっかむりもう一回挟んでみようか」
男の尊厳をこっぱみじんに砕いた一部始終が虎の端末に映像としておさめられている。
「いいかお前ら」ここまでこてんぱんにやられたらわかっているとは思うが、一応釘を刺しておく。「俺たちを裏切ったら、この映像を一コマ一コマ出力して町役場上空からばらまく」
我ながら最高にえげつない。
「はいはい! おれ、一から順に番号ふる係やる!」と、虎が文化祭準備の雰囲気で挙手する。
「それいいな」
「全部集めたあかつきには、とってもはずかしいパラパラ写真のできあがり!」
「そんじゃ、おまえらはこれからどうすればいいか言ってみろ。はい、倉敷くん」
名指しされた倉敷はドレッドを大きく揺すって顔を上げ、ドレッドを小刻みに震わせて、魔王を拝むがごとく質問者の俺を見上げる。
罪悪感で胸がつまる俺とはまるで別の生き物としか思えない虎は、倉敷の死相をものともせず、「早く言わないと、パラパラ写真つくっちゃうぞ」とケラケラ笑いながら、端末のディスプレイを倉敷の眼前に突きつける。
そして俺は確信する。虎とたすくは精神から硬く結ばれた無二の友で間違いない。
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