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「きょ」と倉敷の声が無様にひっくり返る。「今日あったことは、あんたたちに全部任せて、設楽さんに言わない!」
俺は努めて鷹揚に頷く。「そう。俺らがあの人を言い含めてやる。コカイン一キロの誤解も解いてやる。だから?」
「一切口にしない! 蒸し返したりしない! 設楽さんの前では今まで通りにする!」
「そうだ。あの人は蒸し返されるのが大嫌いだからな」実際はどうか知らないけど。「むやみに蒸し返して、俺らの努力を無下にすんなよ。それで?」
「設楽さんから連絡がきたら、逐一、あんたらに報告するから……だから!」
「だから?」
「ど、どうかそれをばら撒かないでくれよ……」
それってこれ? と、虎が至極嬉しそうに端末のぬるぬる動画をみせびらかせば、倉敷は、殴られるのを恐れる犬みたいに首をすくめた。
もうそのへんにしておけよと、虎に端末を下ろさせ、「俺たちを裏切らなきゃ、こんなのはなかったも同然なんだから。頼りにしてるよ、倉敷くん」
ぽん、と肩に置いた俺の手があたかも毒蛇であるかのように、自分の肩と顔の距離をかせごうと必死になっているのも当然といえば当然だ。
ベッドの下に隠していたポルノをお母さんに発見されるのとはわけが違う。そこに映っているのは男としてあっちゃならない自分の痴態なのだ。
この手の罰ゲームは、いきがることに命をかけている年頃には、殴る蹴るのフクロにされるより、なんならナイフでめった刺しにされるより、ずっと痛い。こんなことをやらされるなら死んだほうがマシというシロモノだ。今はどうか知らないが、その昔は、結束力がものをいうガキの暴走族やらギャングやらでは、よく使われた見せしめの方法である。
離れた場所で端末を両手に握りしめ、食い入るように映画鑑賞している楓に視線を飛ばす。キキの青春に自己投影して、一喜一憂している楓にはとてもじゃないが見せられない。
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