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朝飯食ってちゃんと学校行けよ、と、不良の輪を解放してやり、山道の路肩に駐めておいたインプレッサに戻ると、どこからともなく、ラジオ体操のかの有名な前奏が聞こえてきた。新しい朝が来た。
虎が特大のあくびをかましながら、後部座席に乗り込む。
「ちょっと寝ようかな」
「おう、寝ろ寝ろ」
なんで当たり前のようにお前も乗ってきてんだよ、と、助手席に一番乗りした楓に凄む虎を、ルームミラー越しに見ながら、ダッシュボードに手を伸ばす。
「虎。寝る前に、メモリーカードをよこせ」
「なんで」俺にちらりと見てから、また楓を睨む。「下りろよ。くノ一と同じ空気吸ってるってだけで吐き気がする」
「一応、俺もバックアップとっておいたほうがいいだろ」
「知ってる?」と、楓。「そういうのヘンケンっていうんだよ。あたしだって好きでくノ一に生まれたんじゃないんだから。嫌だから抜けたんだから」
べ、と楓は舌を出し、颯爽とシートベルトを装着する。虎が手を伸ばしてベルトのロックを解除する。ベルトが引き戻る。何事もなかったかのように楓が再び装着する。
「忍ごときすら抜けるとか、お前、まじでクソだな」
「抜ける勇気もないくせに」
「勇気の問題じゃないね。利害の問題だから」
「じゃあ、覚悟って言い換えてあげる。あんたなんか、島に帰って務めを果たす覚悟も、命がけで逃げる覚悟もないだけの臆病者じゃん」
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