第二話

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 プラスチックスプーンを歯に挟んだまま、虎はラップトップをあけて、肺の奥底から染み出たような落胆の声をあげた。 「どうした」  苦い薬を五、六粒いっぺんに噛み潰した顔で、くるりとラップトップをおれに向け、お手上げのポーズをとる。  ディスプレイに視線を落とすと、ウインドウが次々と開かれ、最後には地図が開かれ、中心で矢印が点滅していた。 「もう新しいラップトップ買う」 「なに……ハッキング?」 「だから、これはもう雪にあげる」  いらない。断じて、いらない。  「この矢印は、遠野の現在地か」 「そんで」と、虎がキーを打ち、背面のウインドウを前面に出す。「これが行動パターンだね」  夕方までは、だいたいアパートにいる。夕方以降は、仕事とプライベートの線引きができていない人間特有の動きだ。 「ここだな」と、時間と場所が記された一行を指すと、 「ここね。って、なにが」 「ここで遠野に一杯食わす」 「ふうん」 「コカイン一キロ」虎を見やると、冷ややかな視線が返ってきた。「少なかったわけだから、その取引で遠野は損をした。手元のネタも少ない。焦っているはずだ。それに、少なからず取引相手に不信感を抱いている。そこにつけいる」 「どうやって」と、虎はあくびをかみ殺しながら、興味なさそうに言う。 「俺たちが遠野の取引相手になる」 「はあ」 「信用させて、騙す」  虎は、目玉をぐるりとまわして、「あのね」と、いらだちを隠そうともせず声に乗せた。「どうしてそんな無駄なことするわけ。遠野をサクッと殺して終わろうよ。早く帰ろうよ。コンビニまで徒歩一分の我が家に!」 「遠野を殺してチャンチャンになんねえだろ。遠野の後釜は後から後からわいてくる。そうなったら、第二、第三の倉敷君だよ。新しい朝にパラパラポルノ写真の雨あられとあっちゃ、ラジオ体操中のよい子は希望もへったくれもねえ」 「依頼から逸してる」 「気のせいだ」  きっぱりと言い切ることがどんな有力な証拠よりも説得力を与えることもある。
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