第〇話

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「なんだって」 「お前が直接手を下したか、そうでないか。その違いに意味はあるのか」  ない。俺の現状に「死んだように」という形容詞がついているのが何よりの証拠に思えた。  酒を口に流し込む。この店で一番良い酒らしいが、味わうような飲み方なんか知らない。このひや酒に氷をひとつ浮かべたいと思ってしまうような育ちだ。生まれたときからすでに、ろくなもんじゃない。 「俺の代わりを探している」 「その前に病院を探せよ」 「病人には任せられない」 「カウンセラーだよ、言わせんな」 「一線から退きたい。静かに暮らしたい」  日本語で喋っているはずなのに、何を言っているのかわからない。返す言葉がみつからないから返さないことにした。ひと口飲み干す。甘い酒だ。 「天涯孤独の逃亡者――お前がこの世から消えても誰も気がつかない。実に都合のいい人材だ」  そう言われても仕方ないのかもしれない。言われて当然のこともした。それでも赤の他人に言われると頭にくる。 「雪」親しげな声色だった。「幸せとは何だと思う」 「人それぞれだろ」  投げやりに呟くと、「良い答えだ」と男は小さく笑った。
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