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ふわふわの栗毛にしなやかな細い手。むっちりと柔らかそうな太もも、赤く彩られた爪。
彼女の持っているもの、できること。僕が持っていない、できないこと。
「りっこ今日なんかかわいいね」
「あ、わかってくれる。新しいリップ買ったから、使いたくてさ」
「あ、赤ちゃんのような唇、ってやつか」
「そうそう。さすが、るい」
かわいらしい声で笑う彼女の唇は、遠目でもわかるくらいに潤っていて、嫌味のない自然な桃色をしている。
誰が見てもかわいいと思うだろう彼女と、誰の目にもかっこよく映るであろう彼は、いわゆるお似合い、というやつで。
ひどく、虚しくなった。
僕は、幼い頃、幼なじみである彼が大好きで大好きで仕方なくて、どうにか彼に好かれようとしていた。
彼が、かわいい子が好きだ、と言うので、かわいくなろうとした。
女の子が好きなんだ、と言われて、女の子になろうとした。なれると思っていた。
精通した時、恐くて恐くて母に相談した。母は僕の間違いを正し、ごめんね、と言って僕を抱き締めた。お母さんが悪いんじゃないよ、と言ったが、その時僕は心の中に、全てを終わらせようと錠を作った。
けれど、彼が好きだという気持ちは、どうしても閉じ込めることも、捨てることもできなかった。だから、隠すことにした。
僕は、かわいいと言われたかった。ただ、彼に好かれたかった。
だから、彼女は一番妬ましく、一番羨ましい存在だった。
いつか、彼が結婚して、家族ができて、どう足掻いても届かなくなってしまった、その時。僕は、笑えるだろうか。
錠の鍵を、捨てられるだろうか。
いっそ、まだ手が届く今のうちに、彼自身を、閉じ込めてしまおうか。
そんな甘美な毒を、二度と戻れなくなる夢を、渇望する。もしも、いつかその毒を舐めてしまったときが、きたならば。きっと僕は、皿までむさぼり尽くすだろう。
なんて、馬鹿なことを思い、今日も僕は笑った。
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