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問題編
店内には、バーテンダーが手際良く客好みのカクテルを作る音や、「この前の障がい者テニスの試合には感動した」 などの客達の世間話が、心地良いBGMとなって響いている。
「杉野課長、この後はどうします? まだ何処か行きます?」
「そうだなぁ。まだ帰るには早いが、何だかこう、つまらんな、竹下」
「えぇ、いやいや誘っておいてそんな元も子もない事を」
何処かで一献済まして来た様子のサラリーマン風の男性二人は、カウンターに座り時間を持て余していた。杉野と呼ばれた男は何かないかと店内をチラと見回す。
部下である竹下の右隣りでは、自分達と同じようなスーツの男が一人酒を飲んでいる。
杉野自身のすぐ後ろを見ると、小さなテーブルに老齢の女性と若い女性が座っている。テーブルには、持ち手の白色が映える黒い杖が一本立て掛けられている。
「こんばんは。こんなご婦人方が近くにいたとは気付きませんでした」
元来フランクな性格、別の言い方をするならば図々しい性格の杉野は、酒が入っている事もありテーブルの女性二人に声をかけた。
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