第三節

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 夕暮れが少しずつ近付いてきた空の下、青年は集落の出口の前に立っていた。  控えめに伸ばした青年の手に、まるで見えない絹の幕があるかのような感覚が伝わる。 「………」  手を引いた青年は、その指先を見詰めて不思議そうに小首を傾げた。 「婆様の結界、スゴいでしょ? 結界の外は普通に森の一部みたいに見えるんだよ? …って、入ってきた時にわかったよね?」 「……―」  不意に後ろから飛んできた声に振り返れば、そこにはあの彼女が、フリュールが"クー"と呼んでいた少女が、どこか誇らしげに微笑んでいた。  青年は身体を彼女へ向け、視線をその後方へと投げる。  小さな、本当に小さな集落だった。  民家らしきものはここまで来たときにふと数えてもほんの十数棟といった所、住人も恐らくは五十もいないだろう。 「全員で三十四人だよ」 「………」  青年は少し驚いたように目を微かに見開く。  クーは小さく笑った。 「なんでわかったのって顔だね。いや、まぁ勘だよ、なんとなぁくそんな顔してたからさ」 「…………」  青年は自分の顔を指先で触れた。  当然、自分で自分の表情なんてわからない、その指は自分の頬や口元を撫でるだけで、表情の把握などできはしなかった。  その彼の行動が少し可笑しく見えたのか、クーはクスリと笑ってクルリと踵を返す。 「ねぇ…」 「?」  再びクーが口を開く。  青年はその背中に視線を合わせ、それに応えるように彼女も続けた。 「キミってさ…もしかして、喋れないの?」 「………」  途端に、青年の目は伏せられ、その目は彼女の背中から足元の地面を向いた。 「……………」 「……そっか」  少女は横目で青年を見て、少し寂しそうな声で呟いた。 「……えっ…と…」 「?」  少女の言葉が少し濁ったのを感じ、青年は目を上げる。  そこには相変わらず背を向けたままだが、どこかモジモジしているクーがいて、青年はまた首を傾げる。 「…その…さっきは…ゴメン。喋れない相手に謝れとか…」 「…………」  青年は足を進め少女の隣に並ぶと、その少女の頭に軽く手を乗せた。 「わ!」  突然のことに驚く少女に、青年は相変わらずの無表情でそのまま歩き去る。  クーは一瞬ポカンとして、それからまた小さく笑った。
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