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その湯気の発つ木で作られた碗の中から、同じく木で作られたスプーンでそれを掬う。
そして口に含んだ瞬間にきた山菜のほのかな苦みと、それを追いかけるようにやってきた白米の甘さに、青年の表情は微かではあるが確かに一瞬ホッとしたような柔らかいものになった。
「ほっほっ、どうやらお口に合ったようじゃな」
青年のその微かな反応に対し、向かいに座るフリュールは嬉しそうな声を上げる。
「婆様の山菜粥は世界一だからね!」
そして、その隣に座って同じく粥を口にするクーが誇らしげにそう言い、フリュールはまた「ほっほっ」と声に出して笑う。
「ん~…作り方知ってるのに、なんでアタシが作ったのって婆様みたいにならないんだろ…」
口にスプーンをくわえながら呟いたクーをたしなめつつ、フリュールは柔らかい笑顔のまま自分も粥を一口食べた。
「クーにはまだ、本当に食べて欲しいという人がいないからだよ」
「え~! アタシはいっつも婆様に本気で食べて欲しくて作ってるよ!」
本気で食べる、果たしてどんな食べ方がそれに値するのかにわかに想像が難しい表現であることはさて置き、クーの目は真剣だった。
フリュールはそれに苦笑し、クーの頬に付いた米を指で摘み、それを自分の口に運んでニコリと笑う。
「まだクーには早いかもしれないねぇ…。まぁ、なるべく早いうちに現れてくれる事を願うさね…」
「だからアタシは~!」
それから再び始まる二人の会話を聞きながら、青年は静かに空となった碗を手元に置いた。
「おや? もう良いのかぇ?」
これまた機敏に反応したフリュールに青年はコクリと頷いて、そしてそのまま深く頭を下げた。
フリュールはそれを見て、そしてキレイに空となった碗を見た後、「そうかぃ」と優しく微笑んだ。
頭を上げた青年、その顔を見た瞬間、向かいに並んで座る二人の目が丸くなり、そして同時に吹き出した。
「ぷっ! あはははは!!」
「?」
弾けるように笑い声を上げるクーに首を傾げる青年に、フリュールは自分の頬をチョンチョンと示した。
「"それ"は、「美味しかった」と捉えさせて貰うよ、お若いの…ほっほっ」
青年はフリュールに示された自分の頬に手をやり、そして目の前に持ってきた指の先に付いた米を見た瞬間、どこか気恥ずかしそうに眉をひそめるのだった。
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