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家を飛び出した青年は、その光景に目を見開いた。
逃げ惑う住人の悲鳴、そして、その住人を追いかける獣、獣、獣。
十数…いや数十の獣達が、鋭い牙をギラつかせながら集落を逃げ回る住人達を襲撃していた。
青年の身体は止まり、その思考は後退し、意識は遠退いていた。
『…―――……―――――………―――――……』
見上げたそこには血にまみれた父がいた。
縄梯子を投げ入れるその瞬間、何かを叫んでいた気がする。
それからまた意識は暗転して、次に見たのは黒色の集落と赤色の地面と灰色の空だった。
それ以外の色は無くて、全く無くて、何も無くて、自分自身の存在すら、この黒と赤と灰色の中に溶けて、消えてしまいそうで……。
恐怖が込み上げてきて、気が付いたら泣いていた。
灰色の空から降る無色の雨にうたれて、自分のいるこの世界を何一つ変えてくれない無色透明の雨にうたれて、泣いていた、泣き叫んでいた…。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて……。
涙も声も枯れ果ててもまだ泣いて、そして……―――。
「ぅあぁーーん!!!!」
「―――……っ!!!!」
青年の意識が急速に覚醒する。
響いた幼い子どもの泣き声の方に目を走らせる青年の足は既に駆け出す体勢になり、その手は強く鞘を握り込んでいた。
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