第四節

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 一年前、ある国同士による互いの領土をめぐる戦争があった。  両国の兵士は総勢約三万と数千、それぞれの国で選りすぐられ、鍛え抜かれた屈強な兵士達だったと言う。  そんな兵士達による戦いがどのような結末だったのかと言うと…。  それは、痛み分けと言う名の両国兵士の約三分の二が死に絶えたという、凄惨極まりない結果だった。  それが単なる戦争によるものならば、この世界にとってはありふれた事だったのだが、その兵士達を、両国をほぼ壊滅状態にまで追いやったのは、たった一人の剣士だったという。  その者は純白の衣と剣を持ち、突如として現れた。  そしてその剣と、その圧倒的なまでの強さで、次々と兵士達を斬殺した。  最終的に、兵士達は敵味方関係なくその剣士に挑んだのだが、結果は先程の言葉に帰結する。  絶命した兵士達の中に一人立つその剣士は、その纏った純白の衣にたったの一滴とて返り血を滲ませることなく、感情を一切感じさせない虚ろな眼差しで空を見上げていたと言う。  その常軌を大きく逸脱した光景を目撃した生き残りの兵士達は口々にこう言い、それ以来誰一人として戦地へと戻らなかった。 「我々の愚行に、神は虚空より死神を遣わしたのだ…」
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