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「"虚空の死神(シエロ・ラ・モール)"……?」
その名を、彼女は聞いたことがあった。
風の噂で聞いた、別大陸にて起きた戦争に突如として現れ、並み居る兵士達をことごとく斬り捨てた謎の剣士を指す忌み名だ。
その名をザンナは、自分と対峙する青年へと向けて、表情を強張らせながら言った。
確かに、特徴は合っている。
白い服と剣、先の戦いで見せたあの圧倒的な強さ。
相手は自称とは言え、国の騎士団長を名乗る男。
それを相手取ってのあの身のこなしと剣技は、彼がその噂の剣士であることを証明する材料として頷けるモノが僅かながらにある。
………だが、クーはこの青年が、その剣士であることを信じられなかった。
これは信じたくなかったとか、直感だとか、そう言った思いからくるモノではなく、この短い間に彼女自身が見た彼の人柄や行動の一つ一つが、この青年がそんな忌み名を持つ人間だとは思えなかったからだ。
「っは! 大量殺人の張本人が、まさかこんな所にいたたぁなぁ…!」
「………………」
そんな彼女の思いを嘲笑うかのように吐き捨てるザンナと、それを否定することなくただ沈黙する青年。
…いや、"ただ"沈黙している訳ではないのだろう。
何故なら彼は、彼女の知る彼は…。
「…………………」
「ちっ! だんまりかよ、スカしやがって…!」
肯定するにしろ否定するにしろ、それを言葉に出す術を持っていないのだから…。
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