第二節

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 それは少女だった。  しかし、ただの少女ではなかった。 「………………―」  青年の目は涙目になりながら顔をヒクつかせる少女の頭へと向いていた。  獣の耳だ、彼女の濃い金色の髪と同じ色をした獣の耳が、恐らくその彼女自身の心情を表しているのだろう、ピーンと空に向いて動かずにいる。 「…………………」  青年はその獣耳の少女の頭の先から爪先までを目だけを使って見据える。  肩口くらいまでで切り揃えられたフワフワとした金髪に大きな翡翠の瞳。  肩だしの服とスラリと伸びる足が強調されるショートのパンツにロングブーツと、快活なイメージが強いその出で立ちは、盗賊はおろか旅人にも見えない。  しかし、ここは小さいとはいえ見晴らしの利く丘の上、休む前にグルリと見渡した視界には町や村といったような場所は見当たらなかった。  考えれば考える程に深まる疑問に、青年は人知れず小さく首を傾げた。  一方、その問題の少女の方はと言えば、自身の喉元に絶妙な距離感で突きつけられる刃に怯えきって自分が観察されている事など微塵も気付いてないようだ。 「……………――」  緩やかに時間が過ぎ、そして実に三分と少しの時間を経て漸く、少女の喉から刃が引き、青年が慣れた手つきで剣を鞘に納めるのと同時に、少女はヘナヘナとその場に崩れるように座り込むのだった。  途中からどうやら呼吸を止めていたらしい、激しく咳き込みながら荒い深呼吸を繰り返す少女に青年は目を細めて、踵を返して丘を後にし―「――ようとしてんじゃないわよこのぶわかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「…………………」  少女の絶叫が、まるで雷の如く丘の上に響き渡った。
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