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彼、こと百瀬君に。
百瀬君は図書委員であるらしく、放課後になると受付のところに一人で座っていた。
高校の図書室、しかも放課後なんて、生徒なんか来るわけもなくて。だからだと言ったら言い訳じみているかもしれないけれど、彼は強く印象に残った。
ただ正直な話、彼は図書室にいそうな容姿ではなかった。本を読みそうな人にも見えなかった。まぁ、人のことなど言えないのだが。
なのに、ただ静かに本を読んでいる彼の姿は、ひどく綺麗だった。
それから、僕は雨が降ると百瀬君を思い出して放課後の図書室に足を運ぶようになった。
別に彼と話がしたいわけではない。彼とは一度も話したことはないしクラスだって別である。名前と学年を知ったのも最初に出会ったときに名札を見て、といった感じだった。だから僕は百瀬君の下の名前を知らない。
だけど、
彼の本を読む瞳。
ページをめくる白い手。
雨に目をやる彼の視線。
そのどれもがただただ綺麗で、好きで。
見てもいなかった天気予報を毎日チェックするようになったり、予報が雨だとちょっと嬉しくなったり。
―――今日みたいに雨の日はわざと傘を忘れてきちゃったり?
なんというか、自分でもバカみたいだと思う。朝、傘とにらめっこして結局おいてきたことに自分で笑う。
でも、多分傘を忘れたなんてことがなければ彼と関わる事なんてなかったのだろう。
そう思うとあの日のあの雨に僕は今では感謝している。
だからとは言わないけれど、僕は彼との出会いを偶然ではなく必然にしたかったのかもしれない。
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