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ーーーもうすぐ完全下校時間になるという頃。
雨も小雨になってきて帰れる状態にまでなってしまっている。僕は仕方がなく、今読んでいる本を借りるため立ち上がった。
「この本借りたいんですけど。」
「わかりました、では○×日までに返してください。」
このたかが一言二言の会話がしたくて、そこまで興味のない本をわざわざ借りて帰る。そういうことをしたのはもう何度目になるか。
そのもう何度目になるかわからない定着してきたこのやりとりも僕が図書室に通う理由の一つでもあるのだけれど。
しかしながら、この図書館通いも今日で当分なしになる。
そう、明日から夏休みなのだ。
普段の僕なら嬉しさでいっぱいであろうこの日なのだが、少し残念に思っている自分がいた。
夏休みでも図書室は空いている。けれど百瀬君が夏休みにわざわざ図書室にいる確率なんて雨の日に彼が図書室にいる確率に比べればよっぽど低い。
だから僕は今日でしばらく彼に会えなくなると思い、いつもより感情をこめて、一言一言大事にいつもの台詞を言った。
「すみません、この本を借りたいんですけど――。」
―――そして今に至る。
彼の言葉をかみしめながら帰り支度を済ませて、さてもう帰ろうかとドアに目をやろうとしたら、
百 瀬 君 と 目 が あ っ て し ま っ た。
僕はすぐ目をそらしてしまい、勝手に気まずくなってしまった。
今学期最後がこれでいいのかと思いながらも声は聞けたし次ぎ会うときは1ケ月以上も先なのだと自分に言い聞かせて、仕方なく目線を床に向けて受付の前を通り過ぎようとした。その時。
「雨、綺麗ですね。」
――――初めて彼の言葉を聞いた気がした。
---to be continued
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