砂丘に花が咲くように

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「どうしたんですか」 「い、いやあ実はさっき国の役人が来てさ、結構な補助金と住居が出るみたいだからさ、じゅ、住民ももういないしさ」 「……出ていくと?」 「そうそう。そうなんだよ悪いね。というか、もう他の人も出ていったよ。残りは君だけさ。鍵は全部開放されているから、あとは好きな物取っていってくれ。自己責任だ。じゃ、さよならー」  ぴゅーっと、大家は行ってしまう。何もかもが忙しない人だった。声をかけても良かったが、とてもそんなテンションではなかった。  補助金を出してまで転居を促すとは、いよいよもって国はこの県を見捨てにかかっているのだ。そんな危ないところに暮らす方が悪い、そう言われているみたいなものだ。アパートはすっかりがらんどうだ。砂漠に埋もれたら、ものの数日で自然に還ってしまうだろう。  自室に戻って荷物を整理し始める。  確かにここに残っていても、もういいことはない。彼女とだって、せっかく会えたのに酷い別れ方をしてしまった。  彼女は全てを砂にしてしまう気だろう。あの最後の質問は、俺に猶予を与えていたんだ。唯一彼女と交流した、俺に対して、砂になるか、ならないか。  俺は答えられなかった。関係を肯定できず、タイムアップだ。どうしてすぐに答えてやれなかったんだろう。今更になって苛立ちが募る。 「……んなこと言われても、どうすりゃいいのさ」  吐き捨てて、床に寝ころんだ。もう本当に、何もやる気にならない。このまま砂に埋もれてしまいたい。  ごうごうと音がする。砂が壁にぶつかっているのだろうか。それにしてもうるさくて、まるで砂嵐でも起きているようだった。ひょっとしたら、彼女が砂漠化のペースを速めているのかもしれない。もはやこの世に未練などないから。そんなこと、彼女なら平気で言いそうだ。 「…………」  苛立ちは徐々に引いた。彼女がどうして暴れているのか、詳しく知っているわけではない。でも、そうなるだけの理由があって、彼女なりに苦しんでいたのだろう。  関係なんて、もう必要ない――彼女が最後に言ったことだ。彼女に残った唯一の関係が俺だったんだ。それが無くなり、絶望した。そうして世界を滅ぼそうとしている。彼女を止めなきゃならない。それができるのは俺だけなんだ。でもどうしよう、もう彼女と会う方法なんて。 「あ」
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