砂丘に花が咲くように

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「砂丘と砂漠は違うんだよ」  あの日の放課後、彼女は俺と会うとすぐに力説を始めた。口調にはわかりづらくても目が爛々と輝いていたから、興奮しているのがすぐにわかった。 「砂漠っていうのは、もうその地域全体から水気がなくなってしまってることをいうんだ。気温の差も激しい内陸部の乾燥地帯のことを言う。それに対して、砂丘っていうのは砂の積もった地形の名前でしかない。砂の下の地面が湿る場合もあるし、水気だってあっていい。鳥取砂丘とかは海岸沿いだよな」 「……それ、また調べたの?」 「ああ、部活の合間に携帯で調べてやった」 「ご苦労なことで」  俺らは不思議と気が合った。話す話題が似通っているわけでもないけど、お互いあんまり騒がしいのが好きじゃないっていう共通点が合った。同じクラスで浮いていた者同士が、賑やかな連中を冷ややかに眺めてぶつくさいっていたら、話すようになっていた。  お互い別々の部活に所属していたけど、終わる時刻は大体同じだった。そしていつの頃からか、駅までの帰り道を一緒に帰るようになった。  俺は基本受け身だった。彼女はというと、同学年の人が到底聴き続けていられないような蘊蓄を、さも楽しそうにずっと話し続ける人だった。知識を得ることそのものに喜びを感じる人だったらしい。いつも面白い話題と言うわけにはいかなかったけど、無駄なレスポンスをしなくていいから、俺としては楽な相手だった。 「ああ、いいよなあ。砂漠。行ってみたい」  そのときの彼女は恍惚とした表情を浮かべていた。彼女がそれほど感情を露わにするのが珍しかったから、俺は少し驚いて、自分から質問をした。思えばこれも珍しいことだった。 「直接砂漠を見に行くの?」 「そうだ。ネットで調べるのと、実際にみるのじゃ雲泥の差だろうからな。何かを学ぶということは体験することなんだ。私はまだ若い。ゆえに経験が足りない。もっともっと、体験をしたいのだよ」  彼女の舌がぐるぐると回って、長々とした文章を放っていた。俺は顔を引きつかせて、「はあ」と溜息をついた。そんな話し方をするから、友達も碌にできないのではないかな、そんな本音を裏に隠していた。 「こら、若い者がそんな疲れ切ってちゃいけないぞ」  彼女は全く別の意味に受け取ったらしい。 「若い若いって、高校生の俺らが言うことじゃねえよ。もっと年老いてから言うものだよ」
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