砂丘に花が咲くように

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 しかし砂漠化は事態として日に日に深刻さを増していった。  砂漠化はやがて本州全土に広まり、関東にも影響するかもしれない。そんな懸念が国会で追及され、総理大臣さえもせき立てた。数日間、内閣府で緊急の会議が行われた。  会議の終わった翌日、不安がる某県民、そして全世界の人宛に緊急発表が放送された。まず某県住民を他県に避難させること。そののち、県境に海水循環装置を設置して湿潤を一定に保ち、砂漠化を食い止めること。言ってしまえば、某県を孤島として隔離するプロジェクトである。どこにそんな行動力が余っていたのか、総理はものすごい速度で人員と装置を準備し行動を始めた。  当然ながら、某県中はパニックに包まれることになった。      *     *     * 「こうも世の中は変わってしまうのか」  街を歩きながら、俺は驚きを隠せないでいた。買い物と散歩からの帰り道だ。空は曇っているが、それ以上に周りが鬱屈している。  あれだけ賑わっていたこの地方都市も、今ではすっかりゴーストタウンだ。人がいないし光も少ない。砂漠になる下準備が着々と整っているようで不気味なことこの上ない。  例のぼろアパートもすっかり住民がいなくなっていた。詳しく関わっていないが、もう片手で数えられる程度しか残っていないと思われる。俺がその玄関を開けると、やつれた様子の大家さんが駆けこんできた。 「やあ葉山くん、ちょうど良かった。君、いつ出ていけるかな?」 「あ、とうとう来ました? その手の話」 「すまないね、国の方針にこんなアパートは逆らえないよ。なるべく住民を裏切る真似はしたくなかったんだけど、私にも生活があるからね。帰宅できる日が分かれば教えてほしいんだ。なるべく融通は聞いてくれるはずだから」 「……あの、最大でいつまでになりますかね」 「え? 多分あと三カ月くらいだと思うけど……どうしたんだい? まさかぎりぎりまで残るとかじゃ」 「いえいえ! 決してそういうわけではなく」  顔を青くした大家を背に、俺はさっさと自室へ戻っていった。俺はできることなら残っていたいと思っていた。しかしそれを言ってしまうのは、大家さんに悪い。  なぜ残りたいかといえば、この街が、彼女の引っ越した街でもあったからだ。
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