砂丘に花が咲くように

9/16
前へ
/16ページ
次へ
 そうして彼女は、再び俺の前に現れた。現実感もなにもない、からっからに乾いた再会だった。 「あれ、全部お前がやったの?」  俺が砂漠を指さすと、彼女はすんなり「うん」と、首を縦に振る。 「なんでそんなことしたんだよ」 「砂漠を見たかったからじゃないかなあ」 「どうやったんだよ」 「なんか、念じていたら、できた。ははは」  彼女の右手には手袋が嵌められていた。それを彼女は左手で外す。現れた真っ白い指が、「えい」と地面に触れられる。すると、僅かに残っていた草花がみるみるうちに萎んでいった。緑が茶色へ、黒へと変わっていき、芯が崩れて砂と化す。 「な?」 「……本当なんだな」  それから、俺と彼女は、彼女が引っ越した後のことを報告し始めた。といっても、そんなに熱心に話題が合ったわけじゃない。俺は普通に進学して普通に落ちぶれたことを淡々と説明した。面白くなかったし面白くしようとも思わなかった。彼女の方はというと、転校してからあんまり良い思いをしていなかったらしい。はっきりとは明言していないけど、集団に溶け込めないでいる彼女の姿は容易に想像がついた。 「遠くへ行きたいとそればっかり考えていたよ。だけど家出はしたくない。親に迷惑だしね。だから本を読んだり調べ物をしたり、そうして妄想だけを繰り返して日々を過ごしていた。そうしていると、自分の惨めな人生なんて考えなくてすんだ。だからますます妄想にのめりこんだ。私に行動は必要なくなっていった。すべては私の頭の中で完結していた」  俺は彼女の横顔を見た。口元は吊り上がっているのだけれども、目は遠くに焦点を合わせている。ピントを俺に合わせる気なんて微塵も感じられなかった。彼女の話は淡々と続いた。 「いつの頃からか、私は引き籠るようになった。そのまま数年経って、つい最近ふっと思い出したのが砂漠のことだったんだ。『砂漠を見たい』って、高校生のときに言っていた。ぼんやり懐かしんで、気が付いたら、布団はしわしわになっていた。私は怖くなって外に飛び出した。公園にいてガタガタ震えていたら、そこもどんどん枯れていった。まあ、わけはわからなかったけどできちゃうことは受け止めなきゃならない。私は触れたものの水分を奪う力を持ってしまったんだ」 「それが最初の事件、か。でも、それならどうして砂漠が広まっているんだ?」 「ん、そりゃあ、広めているからだな」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加