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◇◇◇◇◇◇◇Side.Yayoi.
全身の血の気が引く。
いやらしくクチャクチャと音を立ててガムを噛む田中を、ただ見つめるしか術はなくて。
数日前のことが浮かんでは消えて…
確かに聞いた通りに依頼書を書いたはずなのに。気を抜けば泣いてしまいそうになって、力の入らない震える指先は冷たい。
クチャ、クチャと耳障りな音と周囲からの冷めた視線が絶望感を煽る。
どうすれば…口を開きかけた時に突然グイッと腕を引っ張られて身体は大きく揺れた。
ふわっと香るその匂いが中野さんだとわかって、その背に守られるように身体を小さく縮めた。
美晴が狙ってるから…
論外なはずなのに。
私のミスを自分の責任だと言ってくれる横顔。田中の挑発的な態度や台詞にも冷静な対応。気遣う優しさに惹かれて行く。
美晴よりも私の方に好意を持ってるのは明らかだし。
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