【盟友への道標】

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  「そ。此れ、全部あん人に届いてんねん。俺は其れを、順番通りして手渡すんが、今日のお役目や。」 「ほほぅ…。」 理解しているのかいないのか、熊千代は何度も文字をなぞっては首を傾げた。 「此れは…なんと読むのですか?」 「言える訳あれへんやろ。」 「何故です。」 「人のもんやからや。」 「むっ…」 「そないぶすくれても、あかんもんはあかーん。」 芝山は書簡を手元に取り上げると、もう片方の手で窓を閉める。 「あっ」 「ほんなら君も、お役目頑張りや。俺も此れ、持ってかなあかんし。」 「あ、まって!えと……ごちそうさまでした。」 ぺこり。 「ぼくも此処がさいしょのていさつ場所だったので、今から信長さまに“ごほうこく”にあがります。さようなら。」 関心する間も無く。 熊千代と名乗った童は小走りで芝山の部屋を去った。 「手習い…な。」 書簡を一瞥して反芻する、童の言葉。 「そない気楽なもん、此処には幾ら探してもあれへんわ。」 くっくっ。 丹田を擽る笑みを堪え切れず洩らす言葉は、やがて真顔に変わる。  
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