【現邸の夢日記】

2/16
前へ
/114ページ
次へ
  「早く【藤ノ間】へ!」 「縫合の備えを!!」 「……い……」 「先生!与一郎様が何か…」 「如何した!」 「……要らない…。」 「何が要らない?!」 「縫合……とか…要らない、」 「何を馬鹿な…放っておくと致命傷になるぞ!」 「大丈夫…だから。触らないで」 「な…!」 「一人で……帰れる」 「離して。」 静かに呟くなり、【与一郎】と呼ばれた青年は群れを離れた。 痛みからか 右の額に刻まれた傷だけを避ける様に、顔の上半分は左手でしっかり覆われている。 右手が探る様に壁を求めた。 触れるとすぐに、与一郎は歩き始める。 行き先は【藤ノ間】。 其処が今の、自分の【家】だった。 手負いの所為だろうか 一歩、また一歩を進む度 着馴れない甲冑が重さを増す。 額の痛みは増しているのか如何かももう、判らない。 ただ、生きている。 (眠ればきっとまた…昨日と同じ朝が来る。) そうして静かに 与一郎は【藤ノ間】へと消えた。  
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加