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「早く【藤ノ間】へ!」
「縫合の備えを!!」
「……い……」
「先生!与一郎様が何か…」
「如何した!」
「……要らない…。」
「何が要らない?!」
「縫合……とか…要らない、」
「何を馬鹿な…放っておくと致命傷になるぞ!」
「大丈夫…だから。触らないで」
「な…!」
「一人で……帰れる」
「離して。」
静かに呟くなり、【与一郎】と呼ばれた青年は群れを離れた。
痛みからか
右の額に刻まれた傷だけを避ける様に、顔の上半分は左手でしっかり覆われている。
右手が探る様に壁を求めた。
触れるとすぐに、与一郎は歩き始める。
行き先は【藤ノ間】。
其処が今の、自分の【家】だった。
手負いの所為だろうか
一歩、また一歩を進む度
着馴れない甲冑が重さを増す。
額の痛みは増しているのか如何かももう、判らない。
ただ、生きている。
(眠ればきっとまた…昨日と同じ朝が来る。)
そうして静かに
与一郎は【藤ノ間】へと消えた。
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