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「いやいや、礼なんぞ要らんし。」
「いいえ。夫が不在となってから早半年…芝山様は足繁く此処に立ち寄り、甲斐々々しく鶴千代の面倒を見て下さっておりますから。」
「せやけど、何やろ。君からそうされるん…まだ畏れ多いて思うんよ。」
「また、其の様な事を。」
途端、頬をはんなり染めて俯いてしまう女人。
「姫さんも、よう自愛しとかんと。」
「返す言葉もございません。」
「有難うございます。」
深く三つ指を着いて腰を折る様は本当に、未だに此方まで平伏そうとも云う気にさせられる。
其の“姫”の名は、冬と云って
「此の冬…亡き父に代わり織田を支える信忠の兄様や徳の姉様の様に…器量よく、皆さまと接しとうございます。」
「気持ちだけで良ぇんよ、そう云うんは。」
「はい。」
何を隠そう、あの織田信長の、実子であった。
「はぁ…其れにしても氏郷くん、何処まで行ってもーたんやろ。」
「……。」
「こない長う家開けて…帰ったらほんま、説教やな。」
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