【あかつき大名・芝山監物】

7/8
前へ
/114ページ
次へ
  「……あの…」 「ん?」 「実は、其の……」 目を静かに游がせ 景色と見紛う程に雪の似合う冬はまた、躊躇いがちに言葉を紡ぎ始める。 「何や、改まって。」 空気が僅かに移り行くのを感じながら、芝山は柔らかく言葉の先を促した。 「夫から、文を預かっております。」 「……へ?」 「申し訳ありません、わたくしも…此の様な状況下ではどなた様にも頼れず…」 する、と 其の懐から取り出される書状は見てみると 「宛名、無いなぁ。」 雪に紛れる潔白さ。 ただ、中にはきちんと何かが認めてあるのが判る。 「ですから、どなた様にもお渡し出来ず…」 「何で俺なん?」 「追伸があり、わたくしが実(まこと)にお渡し出来ると感じた御方に、此れを托す様にと…。」 「…嫌や。俺、そない信用出来る人間と違うで。」 「なぁ、氏郷くん。」 文の向こう側に在るだろう本人に聞かすが如く。 呼べば芝山は、覚悟を決めて其の文を受け取り中を開けた。  
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加