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「……あの…」
「ん?」
「実は、其の……」
目を静かに游がせ
景色と見紛う程に雪の似合う冬はまた、躊躇いがちに言葉を紡ぎ始める。
「何や、改まって。」
空気が僅かに移り行くのを感じながら、芝山は柔らかく言葉の先を促した。
「夫から、文を預かっております。」
「……へ?」
「申し訳ありません、わたくしも…此の様な状況下ではどなた様にも頼れず…」
する、と
其の懐から取り出される書状は見てみると
「宛名、無いなぁ。」
雪に紛れる潔白さ。
ただ、中にはきちんと何かが認めてあるのが判る。
「ですから、どなた様にもお渡し出来ず…」
「何で俺なん?」
「追伸があり、わたくしが実(まこと)にお渡し出来ると感じた御方に、此れを托す様にと…。」
「…嫌や。俺、そない信用出来る人間と違うで。」
「なぁ、氏郷くん。」
文の向こう側に在るだろう本人に聞かすが如く。
呼べば芝山は、覚悟を決めて其の文を受け取り中を開けた。
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