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相手は小さく唸る。
顔は見えないけど、きっと人差し指を顎に当てて小首を傾げているんだろう。
オレは待たずに次の言葉を続けた。
凛「せめて空き家にしてくれ。毎日掃除しに来っから」
何より売られることが気に食わなかった。
次に何も知らない奴が住んだら、ここにある思い出が上塗りされて消えてしまいそうな気がしたから。
(次は何を言ってくる?オレは負けねー!何としてもここは守る!)
歯ぎしりして待っていると、意外にも返ってきたのは笑い声だった。へ?と間の抜けた声が出る。
≪実はね、私のお兄ちゃんがそこに住みたいって。だから売るのは中止にしようって話になってね~。向こうは凛が良いなら一緒に住みたいらしいんだけどぉ…≫
おじさんが…?
最後に会ったのは随分前だ。
顔も覚えてないけど、そんなことはどうでもよかった。
売らなくて済む。
それだけで充分だ。
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