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デパートのメンズの服屋さんにつくと伊藤龍之介は私にその服屋の前でちょっと待ってろと言ってさっさと店内に入っていってしまった。
…こんなところで一人で待たせるなんて信じられない。
っておもいつつも腕時計で時間の確認をした。
…まだ全然お昼前だ…。
「おまたせ、早いしょ?」
彼の声が聞こえて腕時計から視線を伊藤龍之介にうつした。
「…どう似合う?」
そこにいるのはいつものYシャツ姿の彼じゃなくて私服の伊藤龍之介。
薄めの白と黒のボーダーニットに黒のストレートのズボンを上手にはきこなしていた。
「はい、似合ってると思いますよ。」
「まあ、聞く前から知ってたけどね。」
うわ…似合ってるとおもいますよなんて言わなきゃよかった。
と後悔しつつ、彼の横顔を睨んだ。
「次、お前な。」
「は?」
「だって、セーラーでうろついてたらあきらかに警察に捕まるから。」
「でも、私お財布教室なんですけど?」
「俺が買うから何の問題もないけど?」
「何言ってるんですか?!そんなのダメに決まってるじゃないですか!」
「は?ダメじゃないに決まってんだろ。」
…ダメだ…この人無茶苦茶だ!
普通、彼女でもない女に服買うの?
買わないでしょ!
「とにかく、こいよ!」
またもや強引に引っ張られて連れまわされる。
ついたのは今度は女性服売り場。
「いらっしゃいませ。」
店内に入るとそう声をかけられる。
「…お前は…」
伊藤龍之介は私を頭のてっぺんからつま先までじろじろと見降ろした。
彼はおもむろに服を何着か手にとって私に渡す。
「試着室で着替えてきてみて。」
「はい?だから悪いです。」
「警察につかまったら井上のせいだからな?」
「そ…そんな無茶苦茶なッ」
「つべこべ言わずに早く行くッ!」
試着室に押し込まれてカーテンを閉められた。
「…はあ。」
狭い室内の中で私はこの先の人生に途方に暮れた。
何でこんなデパートの試着室で途方に暮れてるんだろう…。
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