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「では、乾杯だけ」
あたしはワイングラスの脚を手にとった。
今日は彼の誕生日で、特別な日だし。
そして何より、これが最後だから。
「お誕生日、おめでとうございます」
あたしが微笑みを見せると、
さっきまで難しい顔をしていた常務も優しい笑みを返してくれた。
「サンキュ」
――チンッ
グラス・ハープのように綺麗な音が室内に響いた。
常務を見ると非常にスマートな持ち方をしている。
あまり飲まないとはいえ、
グラスをゆすって香り鑑賞しているところを見ると、
基本のワインマナーを心得ていることがわかる。
あたしは微量を舌につけただけでグラスを置いた。
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