第10話

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「では、乾杯だけ」 あたしはワイングラスの脚を手にとった。 今日は彼の誕生日で、特別な日だし。 そして何より、これが最後だから。 「お誕生日、おめでとうございます」 あたしが微笑みを見せると、 さっきまで難しい顔をしていた常務も優しい笑みを返してくれた。 「サンキュ」 ――チンッ グラス・ハープのように綺麗な音が室内に響いた。 常務を見ると非常にスマートな持ち方をしている。 あまり飲まないとはいえ、 グラスをゆすって香り鑑賞しているところを見ると、 基本のワインマナーを心得ていることがわかる。 あたしは微量を舌につけただけでグラスを置いた。
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