第10話

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常務は、あたしの上腕部を掴んでゆっくりと引き離した。 「苦しんでいるってわかっているのに、 おまえが俺のすぐ手の届くところにいるから―――…離せない。  離したくない」 微かに、ブラウンの瞳の真ん中が左右にぶれてる。  「自分の気持ちを、抑えきれない」 あたしの涙を親指の腹で拭い、 唇に触れた。 「おまえが嫌だというなら、キスしない」 あたし、おかしい。 頭では、いけないとはわかっているんだ。  でも、否定の言葉が出てこない。 それどころか、 “この人に触れてみたい” なんて気持ちがわいている。 何も言わないあたしの反応を見るように、 あるいは、試すように。 常務はあたしの唇に触れるだけのキスをして。  数秒後、お互いの顔が拳一つ分くらい離れた。
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