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眠りから覚めると、隣に安らかな寝息を立てる遥。僅かに乱れた髪を梳いてやる。窓から差し込む眩しい光に目を細める。だが窓に映るのは雨ではなく吹雪だった。携帯の速報で飛び立つための飛行機が欠航したことを知る。
念のため派遣先のハローワークに問い合わせすると、安全のため出張を1日遅らせてくれと言われ、ため息をつく。だが、恐らく今日がジパングで過ごせる最後の日なのだろう。
「…あ。今日出発する日じゃ?」
「外、見てみなよ?」
カーテンを開け、雪がふぶいている様子に、察したのかため息をつく。
「延期だなんて、可哀相に」
「明日になったら発つよ」
「じゃあ今日は?」
「オフ」
「オフ!?」
目を白黒させる遥に、淳希は頭を撫でる。
「だから、君に従う」
「つまり、その…」
「ここでゆっくりしてもいいし、吹雪がやんだら…」
「じゃあ、貴方の家に行ってもいい?」
「本当に行きたいんだな」
「だって、明日からは外国でしょ?」
ベッドから体を起こす。あまりの寒さに布団を再び被る。その姿が可笑しくて思わず笑ってしまう淳希。
「何よー」
すっかり元の彼女になったのか、たどたどしい敬語が消えて、改めて帰ってきたのだなと思うと頬が緩んでしまう。
「いや、なんでもない」
「淳希さんは、寒くないの?」
「ちょっと寒いかも」
彼女につられて毛布を被る淳希。眼鏡を掛けていないせいか、目の前に映る彼女の輪郭がぼんやりと映る。それでも確かに彼女が自分のそばにいるのだ。
「ねぇ、昨日、どうして傘差さなかったの?」
「なんでだろうな」
「瑠川がいたから、よかったけど。貴方は無茶するから」
名前から苗字呼びに変わったので、かつての恋敵も、彼女にとっては過去になったのだ。
「偶然、会っただけだよ」
「そう。グルじゃない?」
「それは君と純平でしょ」
共謀を組んだのは確かだ。
「もしかして、妬いた?」
「いや、別に」
頬杖をつき、ふて腐れる淳希が可笑しくて思わず笑ってしまう。
「大丈夫よ。純平さんは、私を娘扱いしていたから」
「はははは。そっか、童顔だからね」
あからさまに安心する淳希が愛おしくて抱き着く遥。
「童顔って貴方も人のこと言えないじゃないの。まあ、私も純平さんを異性としては見なかったわ。だけどとても貴方が好きだということは分かったけど」
最後まで逢わせたがらなかったのは淳希の未来が遥によって壊されると思うと不安だったからだ。
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