3人が本棚に入れています
本棚に追加
どこまでも高い夏の空、そして青い海原。
その海の真ん中に立っているのはセーラー服を着た中学生くらいの少女だ。後ろで結んだ短い髪に縁どられた顔は、幼いながらも意志の強さを伺わせる。
「吹雪。はぐれの深海棲艦が確認されたのはそこから南に10海里ほどの地点だ。目標は何故かそこでじっとしているらしい。こちらは敵の領域を避けながら水上移動で目標に接近。接敵後、これを撃破する。出来るな?」
通信機から聞こえてきた男の声は、いつもと違って真剣そのものだ。
「はい、司令官!!」
その少女──特Ⅰ型駆逐艦一番艦の「艦娘」、吹雪は元気よく返事をする。
「だから司令官ではないんだが。まあいい、艦娘になってからの本格的水上戦闘は初めてだ、気を付けろ。」
男の声が少しだけいつもの気だるげな調子になったが、すぐにまた引き締まる。
今日は彼女とって初めての本格的戦闘。これに艦娘の有用性の証明と、人類の未来がかかっている。
敵は所謂「はぐれ」と呼ばれている、敵が形成している領域外を単独でうろつく駆逐艦クラス。慎重に戦えば負ける相手ではないはずだ。
一回の深呼吸の後に艤装を展開する。艦娘の持つ力によって、目に見えない大きさで周囲を漂っていた構成物質が集まり、機関部や火砲を形成していく。
「吹雪、出撃します!!」
そう宣言した少女は、移動を開始する。
水面はその下に潜む脅威など存在しないかのように、ただ静かにゆれていた。
最初のコメントを投稿しよう!