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あるポーズのまま、シャム猫のような気品さを持つ彼女は止まっていた。
車のフロントウィンドウから見える大橋は、恋人達の憩いのスポットとして人気の橋。今しがた、二人で歩いてきた。
午後19時を過ぎ、遠くのライトを見つめていた時。ふと気配が、空気が変わった気がしたんだ。
彼女のその仕草。
艶のあるルージュが明かりに反射する。
目を閉じ、少しあごを上に向けるその姿勢。
キスを待っている乙女の表情だった。
クルマの中で見る彼女の顔は、どう見ても41歳には見えない。
20歳前後のお嬢様にしか、見えない。
僕の心臓は生まれて初めてのドキドキに、耐え切れなさそうだった。
彼女は薄目で僕を見て、そしてイジワルに笑ったんだ。
「シタく……ないの?やっぱり、魅力を感じない……?」
しばしの静寂が、車内を包み込んだ。
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