一週目『暗がりのキス』

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まるで僕だけが、この街に居るかのような錯覚に陥った。典型的な過疎化の田舎町だった。 得意の麻雀が出来る雀荘も、近辺には無い。 大学時代から腕を鳴らしてきたが、雀荘も無ければ見せ場も無くなる。 そんな遊びの事ばかり考えてしまうが、今日は初出勤も兼ねての気合いの1日目。 こういうのは第一印象が重要だから、僕はいつもより早く家を出てきた。 契約したのが2週間前、住み始めたのが昨日の話だった。まだまだこの町の事を、知らない。 何も目印となる物が無さ過ぎて、逆に迷いやすい。 駅前から2つ目の信号を右に曲がって、ガソリンスタンドがあると聞いたのに、どこにもソレは無かった。 「仕方無い……工場に電話をして、確認してみようか」 最新式のスマホを取り出すと、なんの変哲も無い、青雲の待ち受け画面から暗証番号を押してロックを解除する。 普通の待ち受けが、僕にとっては一番。
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