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ここに来て、ようやくバーテンの酔いが覚めた。
「も、申し訳ございません。先程お客様が召し上がったお酒が最後です」
美女はバーテンの言葉に片眉を上げる。
「最後? 妾はそちの言葉が理解出来ぬ。妾はそちに、妾を酔わせるほどの美酒を求めたのじゃぞ? 妾はまだ酔うてはおらぬ。さ、はよう次の酒を持って参れ」
「ですから、もう品切れでして……」
今や美女から溢れだすのは、滴るような色気ではなかった。美女の得体の知れぬ底知れなさに、バーテンはおどおどと声をすぼませる。
美女が妖艶に吐息した。
「そちの酒は美味であったが……もう無いと申すならば致し方ない。そちの血で妾の渇きを癒すとしよう」
瞬間、バーテンの喉から鮮やかな赤が噴き出す。
騒然とする店内で、熱い赤を浴び、艶然と微笑む美女。
「ああ」
蕩然と――。
「美味じゃ」
恐慌に陥った客達の目が不意に虚ろになり、芯を失ったように倒れる。
「はぁ……」
潤む双眸、上気した頬、艶やかな吐息。
美女は爪の先についた赤を、ちろり、と、舌先で舐め取った。
すべての人間が倒れた店内。
美女がゆったりと立ち上がる。
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