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「ヨウ、少し頼まれてくれる?」
その夜、雪村は小さな赤柴のぬいぐるみに話しかけた。
ぬいぐるみにも関わらず、柴犬が可愛くかつ快く一声吠える。
「ありがとう」
雪村は柔らかに笑んでぬいぐるみの頭を撫でてやる。
少し前、悪戯ばかりする生まれたての狼の妖を懲らしめたところ、雪村のことを主とでも思ったのか、なつかれてしまった。
以来、雪村は妖狼にヨウと名付け、この柴犬のぬいぐるみを借宿にし、時々用事を命じている。
「最近この辺りで突然意識不明になって病院に運ばれ、原因が分からないまま入院している患者を調べて欲しいんだ。出来るかい?」
雪村の問いかけに、柴犬は再び鳴く。
と、ぬいぐるみから、ぬいぐるみと同じ赤い首輪をつけた白い狼の姿が現れ、もやとなり消えた。
「ヨウを待つ間に僕も調べてみなきゃ……」
呟き、家の裏手にある倉から持ち出した大量の文献を一冊ずつ読み出す。
「人間の気を奪う妖は多いけど、ここまで大規模になるとな……」
優しい笑みを湛えた常とは違う厳しい表情。それから三日間、ヨウからもたらされる報告をまとめ、文献を紐解き、雪村の調査は夜遅くまで続いた。
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