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「師匠は、東駅に何かあると?」
「うん。だから立花には僕と一緒に明日東駅に行って欲しいんだ。着いてきてくれるかい?」
「はい!」
立花を持ち上げる雪村の手腕は鮮やか。犬の耳や振りまくる尻尾の幻影を見せる勢いで立花が頷いた。
翌日。
まだ夜の明けぬ暗い中、人通りの少ない道を走り、駅についたのは五時頃。
「始発が出る前に、この辺り一体の気を探ろう。立花、頼めるかい?」
「はい」
真っ直ぐに見詰める雪村に、立花は力強く頷く。
瞼を落とし調息、精神を集中して異質なモノがないかと静かに霊力で探索の網を広げる。気配を探ると駅全体に薄いもやのように広がる妖気を感じるものの、その核は感知できない。
「うっすら妖気に覆われてるんですけど、大元はいないみたいですね……」
深く吐息し少し深刻な顔で報告すると、雪村は立花をねぎらうようにぽんと優しく頭を撫でた。
「ありがとう、立花。それなら、ここには残滓しかないんだろうね。本体が現れるまで、しばらく待とう。人が増えると妖気を探りにくくなると思うけど、今の気配を頼りに本体が来たら教えてね」
そして出勤ラッシュ。
「――来た!!」
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