第1話「切ない猫の交換日記」-1

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それからは毎日、フェリスが交換日記をもってやってくるのが、わたしの唯一の楽しみとなった。 あいかわらず夕方になるとヨウコが来るが、わたしは居留守をつかった。 外を怖がる自分が嫌だった。 自己嫌悪で胸が苦しくなる。 そんなわたしは、スバルへの返事に偽名を使ってしまった。 『お返事ありがとうございます。 わたしの名前はミソノといいます。よろしくお願いします。 フェリスちゃんはとても賢い子ですね。 ウチにはココアというジャパニーズボブテイルがいます。 二匹はとても仲良くしてますよ。』 ミソノという偽の名前を書く時には、ちょっと文字が震えた。 昔観た映画のヒロインの名前だ。 うれしいはずの返事を書きながら、とてもみじめな気分になった。 それに車椅子に乗っている女の子では、スバルに嫌われると思ったのだ。 フェリスを呼び、首輪BOXに丁寧に返信の紙片を入れる。 みじめな顔をしていたのか、フェリスが『大丈夫?』と問いかけるように鳴いた。 「スバルさんに届けて」 お願いすると「にゃおん」と鳴いて、またフェリスはどこかに走り去っていった。
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