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わたしの残りの人生はこの小さな車椅子の上にあると思うと、悲しくなって車椅子の腰掛けを叩いた。
病院で車椅子の動かし方は教わったけど、病院という施設と街という日常は違っていた。
バリアフリーが進んでいるとはいえ、まだまだ不便なことはある。
街は普通の人、健常者が歩くためのものだ。わたしは障害者になったのだ。
その『障害者』という言葉に未来を感じられず、わたしはまた悲しくなった。
もともと友達も少なく孤独だったわたしは、女子校に行くこともなく家に引きこもるようになるのに、さして時間は掛からなかった。
家には誰もいない。父とふたり暮らしだ。
母は去年、癌で亡くなった。
この時父が泣かなかったことが、わたしが父を冷たいと思うきっかけとなった。
思春期のわたしにとって、それはとても心が痛いことだった。
こんなわたしになったのも、この出来事からだと思う。
父は仕事に忙しく、家族がわたしとふたりきりになっても、なかなか家に帰ってこない。
家が平屋の一階建てでわたしの部屋が玄関から近いので、部屋から明かりが漏れている時は、帰ってきた父が夜中でも部屋のドアを〈コンコン〉とノックする。
そんな時、わたしは寝たふりをして父を無視する。
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